『2010年宇宙の旅』

アーサー・C・クラーク氏による、2001年宇宙の旅の続編です。先に映画化された方を見てから小説版を読みましたが、それぞれ味わいどころがあります。ちなみに、どちらも1980年代の作品であるためソ連が登場してきます。(以下、わずかながらネタバレがあるので注意)

映画版は、第一に「米ソ対立」を強調しています。モノリス木星の異変にクルーたちが緊張するシーンが多く見られ、かなりサスペンス的な展開になっています。2001年が謎だらけの奥の深い(=とっつきにくい)映画だったのに対して、2010年のほうはストーリーのテンポが良くとっつきやすい映画になっています。映像の質もなかなかで、とても20年前のものとは思えません。(下手に映像効果を使いすぎてストーリーをダメにしている最近のSFより良いかも)

小説版はというと、なんともほのぼのしたものです。米ソ両国のクルーが家族のように仲良く過ごし、地球上でやってる対立構造なんてどこへやらです。文中でもしばしば「和気あいあいと」という言葉が出てきます。2001年の1.5倍ぐらい長さの長編小説なので、描写やストーリーは映画よりもはるかに詳しいです(特に科学的な内容についての説明が多い) ただ、米ソ対立などの一部のところを除くと映画版と重複するシーンも多いので、映画を見た後に読むとやや退屈だったりします。(2001年だと、映画と小説は結構違う)

ということで、映画版は単なる小説版のコピーではありません。映像的迫力と政治的メッセージを込めることでかなりアレンジしてあり、単なる模倣ではないオリジナリティを出しています。このことはかなり評価できます。