南アルプス南部縦走 9/6・7日目(横窪沢〜畑薙第一ダム⇒大井川鉄道)

横窪沢小屋4:05⇒中の段4:35⇒ウソッコ沢小屋5:10/5:24⇒畑薙大吊橋7:05/7:15⇒畑薙第一ダム8:10/8:20⇒赤石温泉白樺荘9:35

今日は我が登山人生で最も早い2時40分に起床w

早朝というよりは夜明け前、夜明け前というよりは深夜である。下界であれば元気良く起きていることも珍しくない時間帯である。そう思うとまったく山での生活というのは非日常の極みだが、よく考えれば本質は逆であることに気づく。

夜明けとともに起きて日没とともに眠ることは人類としての本来の生活スタイルであるばかりか、太陽光を最大限に活用した最も合理的な生活リズムであることに気づく。これは照明器具がヘッドライトやランタンしかないという極めて限られた状況を経験しなければ分からない。そして、毎晩のように満天の星空が見られることも実は当たり前なのである。今日の文明の源流をたどると、天文学、すなわち暦の発明にたどりつく。満天の星空が毎晩当たり前に見えていて、それを毎晩飽きることなく眺め続けた先人たちの生み出した知恵である。しかしながら、我々はあくまで現代文明のもとで育った現代人であるからして、下界から持ち込んだ物資に頼らなければ生きていくことはできない。それでも、山で何日か暮らしてみれば、古代人あるいは原始人たちが送っていた生活の片鱗は味わうことができるのだ。

今日までまさに山漬けの生活をしてきた自分も、7時間後にはまったりと温泉と食事を楽しみ、9時間後には大井川鉄道の客車旅を満喫し、15時間後には豊橋駅の駅ビルでとんかつを食べ、20時間後には自宅の柔らかいベッドの上で翌日昼頃まで惰眠をむさぼり、すっかり元通りの堕落した下界生活に戻ることになるのだ。文明というものは素晴らしい、しかしやはり恐ろしいのだ。

話は変わって、帰路について。井川駅行きのバスは白樺荘11:50発、そして白樺荘のオープンは10時である。やはり温泉と食事は焦ることなくゆっくりと楽しみたいので、白樺荘に10時までに着くというのは絶対条件。白樺荘までは休憩込みで6時間あれば行けるだろうと読んでいたので、結局横窪沢は4時出発ということになり、支度を余裕を持ってするためには2:40起床という結論にw

テントなら星や小屋の光が透過してかすかに明るいのだが、小屋内は完全な暗闇。ヘッドライトを点けなければ何もできない。手探りでヘッドライトを探して点灯する。トイレに行くために外に出るとこれまた美しい星空。これもひとまず今日で最後である。

朝食は麺の達人とんこつ味。朝のラーメンはそろそろ飽きた・・・かな。

暗闇の中ガサゴソとパッキングをする。で、物置台の上にカメラを置いて朝、というより深夜の小屋内を撮影。



ほーら明るいでしょ? ・・・というのも、10秒間シャッターを開放してヘッドライトで隅々まで照らしたおかげw



実際の雰囲気はこんな感じw テラワビシスww


準備を済ませて出発する。4時はまだ暗く、樹間から星空を見ながらの歩きとなる。ヘッドライトの明かりを頼りに慎重に下っていく。・・・はずだったのだが、最初は横窪峠への登りが待っていることを忘れていたw ひぃひぃ言いながら登りを消化すれば、気を取り直して下りの始まりだ。最初は半袖の上にレインウェアを着ていたのだが、歩き出してみれば意外と寒くなく半袖一枚で十分だったためすぐに脱いだ。斜面自体は急だが、登山道はつづら折りにつけられているので歩きやすい。

最後に急な階段を下りて、吊橋を渡るとウソッコ沢小屋に着く。この頃にはだいぶ明るくなっていた。ウソッコ沢小屋は、新築の横窪沢に比べれば古く感じるものの、内部は十分宿泊可能なレベル。中の張り紙には「ネズミ注意」と書いてあったがw

ちょうど運気が上昇してきたので、今山行で間違いなく最もボロい、もとい山らしい味のあるトイレで用を足す。

ここのトイレ、まず第一に扉がないし、無論ペーパーもなく、内部は木の板に四角く穴が開けてあるだけで下はそのまま地面w ちなみにこういう処理方法を「土壌浸透法」などと呼ぶそうですww なお今山行の第2位は高山裏。あそこも似たり寄ったりだが、扉だけはちゃんとあるw 逆に一番きれいだったのは聖平。水洗トイレで、涸沢や小梨平よりもきれいだった。

そうこうしているうちにすっかり明るくなったので、ヘッドライトをザックにしまって歩き出す。ウソッコ沢小屋からは傾斜はゆるくなる。

途中の水場でお土産用の水を汲む。これぞ正真正銘の「南アルプスの天然水」である!(帰宅してから「森の水だより」と飲み比べてたのだが、「森の水だより」は後味にわずかな酸味があるのに対して、水場の水は全く雑味がない完璧な味だった)

吊橋を何回か渡ると、ヤレヤレ峠に向かって最後の登りとなる。・・・ヤバい、だいぶへばってきた。

ここまで下ってきておいて最後に登りが来る。確かに「ヤレヤレ」だが、いくらなんでも命名者さんセンス無さ過ぎでしょw

で、ぜひ撮ってみようと思っていたカット。


・・・

ここから標高差150mの急な下りで、いよいよ畑薙大吊橋に出る。下るにつれて樹間からダム湖と吊橋が見えるようになってくる。



そしてとうとうやってきた。それにしても長い!


渡ります。なかなかの高度感。


とりあえず「山道歩き」としてはここがゴール。わーわーぱちぱちぱちぱふぱふぱふ。


しかしまだ白樺荘までの長い車道歩きが待っている。距離は地図上の目視で6〜8kmぐらい。出てきた林道は未舗装だったが、登山靴よりはサンダルの方が疲れないと判断して履きかえることに。(というか登山靴は平地歩きのためには作られていない)ストックも畳んでザックの横にくくりつける。軽快!(今回からクロックスのサンダルにした。つま先まで保護する形状と、やわらかい素材のおかげで歩きやすい!)

あとはひたすら歩くのみだ。が、登山靴とストックが入ったザックは先ほどより2kgほど重くなっていて、これがなかなかこたえる。東海フォレストの送迎バスや作業車など、意外と頻繁に車がやってくる。釣竿をひっかけた自転車をこいで椹島方面に向かっていく人もいたw


ダム湖沿いを歩く。いい天気だ。振り返ると南アの主稜線も一部見えるようになってきた。

順調に沼平ゲートを抜けて下山届けを書く。ここからは県道となり、歩きやすい舗装路となる。


そしてとうとうやってきた、畑薙第一ダム! 中空重力式ダムとしては堰堤の高さが世界一だという。デカい。

聖平から先行して下山していった学生団体は「ダムでテント泊する」と言っていたのだが、その姿は見当たらなかった。どうやらあのまま白樺荘まで下りきって昨日のうちに帰宅したようだ。だとすれば、2000mの下降と車道歩きで10時間ぐらいかかったはず。すごい根性w

大吊橋から白樺荘の行程では、距離的に言うとここで半分弱ぐらい。地図のコースタイム表記はここで終わっているのだが、白樺荘まではあと1時間半ぐらいか。10時のオープンには余裕で間に合いそうだ。



南ア南部の山々を振り返る。深く一礼をして、再び歩き出す。


軽快なサンダル歩きとはいえ、足の裏が痛くなってくることは同じ。時折立ち止まって休みながら、地図をこまめに見て「よし、ここまで来た!」という具合に自分を励ましながら歩く。

畑薙ロッジの前を通り過ぎ、最後にトンネルを抜ければ、「うどん」などと書かれたのぼりが立っている。とうとう着いたのだ!


終点、白樺荘でございます。皆様お忘れ物のな(ry

バスはここを始発にして運行している。バス停はこの看板のすぐそばにある。時刻表を確認すると、井川駅前の土砂崩れの関係で迂回運転をしているとのことで、出発が11:50から11:42に変更になっていた。こちらの予定には大した影響はない。

白樺荘自体はこの看板から少し下ったところにある。最後のひと歩きだ。

駐車場のはしっこの樹木の下の陰にザックを下ろし、あらかじめサブザック、風呂セット、お金などを出しておく。

まだオープン前だったが、土曜日とあって何人かの人が待っていた。といっても10人ぐらいだけどww 山から下りてきた者は自分以外にはおらず、ほとんどが地元民や静岡方面から来た人だったらしい。

そして10時よりちょっと前にオープン。ここの温泉は入浴無料で、名簿に住所と人数を書くことになっている。設備は古いものの清潔感はあり、ひなびた雰囲気の良い味を出している。荷物は大広間の隅に置かせてもらった。

ともかくまずは体を洗うことが先決w いつものように石鹸で2回ゴシゴシやってきれいさっぱり汚れを落とす。今回のコースは毎日必ず水場があって、沢水で毎日足や顔などを洗ってはいたが、山の水はものすごく冷たいため10秒ぐらいが限界だった。でもここは暖かいお湯がどんどん出てくる!

温泉の泉質は少しぬめりがある。手前の浴槽がぬるめで、奥が暖かい。奥の浴槽は地元民と思しき年配の方々が占領していて、ぬるい浴槽で空くのを待ってやっと暖かいお湯にありつけた。楽しくしゃべってるのもいいけどさ、ちょっとぐらいは他の方に配慮してほしいものです。



さて、温泉から上がったら食事、食事、食事〜w ここの食堂のメニューはかなり豊富。対応も良い感じ。壁には山岳写真家・白旗史郎氏の写真が数十枚張ってある。素晴らしい作品の数々!(あの人がヤマケイとかで書いてる文章は好きじゃないけどw)



「メンパ御前」をいただく。ヤマメの塩焼きや混ぜご飯などが並ぶ。下山後とあってそのおいしさに感激w 1300円。


味は文句無しながらも量的に物足らず、白ご飯が食べたくなったので追加w 150円。

良い感じでお腹いっぱいになって、広間に置いた荷物をピックアップし、白樺荘を後にした。


自宅への行程はまだ長いとはいえ、もう何時間も歩くことはない。心地よい疲れを残しつつ、バス停への坂道をゆっくりと登っていく。

夢にまで見た南アルプス南部の山々。歩ききったという達成感と、終わってしまったという寂しさが混じりあっていた。


夏と秋の交差する心地良い空気の中、木漏れ日とさわやかな風がやさしく包んでくれた。


[完]