比良山系第17回(武奈ヶ岳)

〜 「岐路」 〜



自分にとって一番思い入れのある山、それが比良山系の武奈ヶ岳だった。

初めて武奈ヶ岳に登ったのは、高3の春、登山を始めたての頃だった。そのときの感動は、4年半たった今も忘れることがない。

それ以来、比良には本当によく登った。特に、武奈ヶ岳にはあらゆるコースから10回も登った。



初めて登った時と同じコースから、武奈ヶ岳を目指した。



自分はこの4年半でずいぶんと変わったし、変わらなかったところもたくさんある。

あの日から、いろいろな経験をして、いろいろな山に登って、いろいろな人との出会いや別れを繰り返して、今という場所に立っている。



あの日の自分と今の自分は、違う。だけど、自分はずっとここにいる。



明るい稜線に出て、ふと立ち止まった。


ゆるやかな秋風に吹かれながら、大好きなあの子と一緒に過ごした真夏の日々を思い出した。あの子からもらったやさしさとやすらぎ、あの子が見せてくれた明るい笑顔、肩を寄せ合った時のぬくもりを、思い出していた。

その幸せを取り戻したいというのは、本当にあり得ない願いごとなのだろうか。


あぁ、そういえば、あの子はどうしてるかな。初恋の人であり、一番長く片想いした相手でもある、懐かしいあの子。

元気にしてるかな。もう好きな気持ちはないけれど、できることなら、会って話がしたい。今なら、きっと、あの時とは違う自分で、あの子と向き合えると思う。


山に入れば、僕はほとんどの間、ただあてもなく考え事をしている。だけど、それは下界で思い悩んでいるのとは、全く違う。

全てはすぐに揮発して、すっきりと消えていく。

このときも同じだった。


僕は再び歩き始めた。

山頂が近づくにつれて足は早まった。最後のゆるやかな稜線は、飛び跳ねるように走った。



武奈ヶ岳は、そこにあった。なにひとつ変わらず、何も語ることなく、僕を迎えてくれた。

山は変わらない。人が変わっても、世界が変わっても、山はきっとそこにありつづける。



そして下った。

うっかり分岐を見落として、やや大回りのルートに入りながらも、気にすることなく下った。


次第に近づいてきた琵琶湖もまた、あの日と変わらない姿をして、ゆったりと佇んでいた。



人はいつでも岐路に立っている。

あの子と向き合ってアイスコーヒーを飲んでいたとき、手にとったグラスを下ろすのが1秒遅ければ、何かが変わっていたかもしれない。不意に無口になったあの子と一緒に散歩をしていたとき、近くに座っていたのが、若いカップルではなく、老夫婦だったら、何かが違ったかもしれない。破局が訪れなかったかもしれないし、あるいはさらに早まっていたかもしれない。いや、そもそも、あの日にあの張り紙に気づかなければ、あの子と知り合うことさえなかったんだ。

大きな決断だけが未来を左右するとは限らない。全く無意味なように見える細かいことの積み重なりが、今という空間を作っている。


人は、いつでも、岐路に立っている。









[登山記録]

10月7日 晴天

イン谷口奥の駐車スペース8:40→大山口8:50→金糞峠9:30/9:40→中峠10:05→ワサビ峠10:35→武奈ヶ岳10:55/11:25→八雲ヶ原12:00→北比良峠12:15→大山口13:00→駐車スペース13:10

レーニングを兼ねていたことと、夕方に用事があったことから、ペースを早めに設定。これまで通常4時間かかっていた大山口〜武奈ヶ岳区間を、約2時間で歩くことができた。全般的に早歩き気味で、平坦な区間は走ってますw

なお、写真は通常はD300で撮っていますが、今回は軽量化のためコンデジ(P80)にしました。レタッチと、4:3→3:2へのクロップをしています。